1934年、Noble Sissleオーケストラの一員としてベシェが録音した陽気なスイングナンバー。 底抜けに陽気な曲は、ふと気がつくと何故かとても寂しい気持になることがある。それは、冷たい月が照らす冬の薄暗い路地裏から、決して自分は入れない他人の家の暖かな明かりを眺める気分に、少し似ているような気がする。
下記は5年前の文。さて、今晩はどんな月が夜道を照らしているのだろう。
「月」
昔、野宿をした。
東京駅で終電に乗り遅れ、皇居の広場のベンチでねっころがって夜空を眺めた。
静まりかえった東京のどまんなかで、深い星空に薄く輪のかかったぼんやりした月が面倒くさそうに昇っていった。
あれから10年。
会社員として働きながら家庭を持ち。
ふと、今日の夜空の月はどんな風に見えるだろう、と湯船の中で夜風の音を聴きながら思った。
でも、考えすぎると疲れてしまうから、とっとと寝てしまおう、と思い直した。
外では夜風がことこと鳴っている。
きっとその上では今日もあのまあるい月が、ちょっとぼやけて光っているのだ。
目を閉じると、昔見たあの月が見える気がした。
けれども、それははるか遠くの記憶の中で、もうすっかりぼやけてしまっているようでもあった。