2009年6月29日月曜日

Kansas City Man Blues

1923年初夏のニューヨーク、Clarence Williams率いるBlue Fiveのメンバーとして録音したこの曲は、同日録音されたWild Cat Bluesと並んでベシェのデビュー作であり、晩年に至るまで折に触れて好んで演奏した曲。夏の強い陽射しにがらんとした埃っぽい西部の田舎町をイメージさせる、のんびりとしたメロディに伸びやかに乗るソプラノサックスの音色が心地よい。禁酒法とCount Basieらの登場によりKansas Cityが華やかなメッカとなる10年以上前のことだ。

2007年の夏、僕は周りに広大な大地以外何もないRoute 70をひた走りにKansas Cityを目指した。途中、熱帯雨林に降るスコールのような大雨とともに、夏と言うのにゴルフボールくらいの雹がぼこぼこと降ってきた。そのあと嵐はすぐに止み、ぽかんとした青空が広がった。

古い道路を進んで寂れたKansas Cityのダウンタウン外れに、American Jazz Museumがあった。駐車場が分からずにしばらく迷った挙句、ようやく辿り着いたミュージアムには、Charlie Parkerのアルトサックスなどが細々と展示してあったが、夏休みだというのに訪れる人もなくひっそりとしていた。

売店にJelly-Roll Mortonのポスターがあったので買おうとすると、売店のおばさんは、彼は良いミュージシャンだ、などと言う。でも、Jelly-Rollは果たしてKansas Cityで演奏したことがあったかな、と思った。ああ、でも確かKansas City Stompと言う曲を書いていたなあ、などと漠然と頭の隅で考えながら、ポスターを買った。

相変わらず人がいないがらんとした寂しい駐車場で車に乗り込み、ミュージアムを後にして走り去ろうとしたら、唐突に左側の壁の落書きが目に飛び込んできた。往年のKansas City Jazzを代表するミュージシャン達が強烈なタッチで壁一面に描かれていた。落書きは、俺らを忘れるなよ、と言っているように見えた。それを見て僕は、やっぱりKansas Cityに寄ってよかったな、と思った。Route 70の上には、相変わらずの青い空が広がっていた。