2008年2月20日水曜日

Where am I

1947年、冬のシカゴにてベシェの盟友Mezz Mezzrowとのクインテットが録音したこの曲は、ベシェが生涯に残した数多くの作曲の中でも、もっとも幻想的で美しいメロディを持つものの一つだろう。

Pops Fosterの心地よいベースに支えられ展開される素朴ながらも歌心溢れたダイナミックな旋律は、ベシェの才能の真骨頂。とかく軽んじられがちなMezzrowの引きずるようなクラリネットも、ベシェの力強いリードの最高の引き立て役となり、ベシェとMezzrowが残した多くの録音の中でも特に秀逸な傑作だ。

先日軽く雪が舞う中、悪友仲間とやっているバンドの練習のため、ある町を訪れた。その町に行ったのは6年ぶりで、前回最後に訪れたのはその町に住んでいた学生時代の親友の一周忌の時だった。その一年前、突然の訃報をきいて駆けつけた時の単線電車は、いつまで経ってもその町につかない気がした。

その頃は僕もバンド仲間も皆独身で、いつも深夜まで飲み明かしては、夜道を押して仲間に実家まで車で送ってもらっていた。その道中にいつもその町を通っており、この曲を初めて聴かせてもらったのも、ちょうどそんな深夜の車の中だった。そして通夜の晩も、泥酔しきった僕を乗せて車はその町を走り抜けた。

あれから7年。ちょっとの間に皆結婚して周りの様子はすっかり変わり、今ではもう深夜の車で仲間に送ってもらうこともない。けれども久々にその町に来たら、なんだかその頃のことを急に鮮明に思い出した。その途端、この曲が頭に流れた。ふと、過ぎた時間を懐かしいと初めて感じたのは、いつの頃だったろうか、とぼんやりと思った。

2008年2月10日日曜日

Back o' town

(シドニーベシェ著「Treat it gentle」、第3章「私の父」より。)

ジャズは売春街で始まった、などというのは全て間違いだ。

何もやることがないときだけ、フランクリン・ストリートなどのキャバレーに出向いて演奏していた、というだけだ。

ある日バンドが演奏している店があっても、次の日にはいなかった。そのような状態で、売春街でジャズが始まった、などと言えるのであろうか。

それは、男のようなものだ。何もやることがないから、男は売春宿に行く。そこで気分転換する。

ジャズとは、そういう男のようなものだった。

2008年2月1日金曜日

A moi d'payer

1955年、映画「Serie Noire」のためにベシェが用意した曲。冬のパリ、Vogueにて行われた異国情緒溢れるスタジオ録音も良いが、映画の中で夜のパリの華やかな高級カフェにて白いドレスの美人パリジェンヌが低い声で引きずるようにして歌っている方が、遥かに生々しく美しい。バックではベシェ本人が演奏者として登場し華を添えている。

先日、粉雪が舞うニューヨーク北部の街まで出かけ、右手を挙げ次のような宣誓をした:

"I do solemnly swear that I will support the constitution of the United States, and the constitution of the State of New York, and that I will faithfully discharge the duties of the attorney and counselor-at-law, according to the best of my ability, so help me god."

一年半前に渡米して以来、色々な事を経験しながら良くも悪くも刺激的な毎日を送ってくることが出来た。でも、そんな生活もそろそろ終わりだ。

A moi d'payerとは、精算する、という意味。

アメリカと言う国において、僕はいつも全くの半人前でしかなかったけれど、一つこの地に自分なりの小さな足跡を残せたと言う意味では、今はここでの生活を満足して締めくくれるような気がしている。