2018年9月5日水曜日

Song of Songs

1947年、真夏のニューヨークで録音されたピアノと二人きりの朗々たる演奏は、数あるベシェの名演の中でも最も光り輝くもの。20年代のダンスナンバーをスローナンバーとして情感たっぷりに歌い上げる。心を揺さぶるように切なくも幸せ一杯の音色が、乾いたピアノの音と絡み合い感動のフィナーレに至る堂々の名演。

だいぶ前のある秋の日、僕はニューオリンズのホテルの部屋で一人、この曲を何度も聴いていた。目の前にはどんよりとした曇り空に午後ののんびりした町並みが広がっており、昨晩の喧騒が嘘のようだった。ゴミ収集車が、ゴミを撒き散らしながらゆっくりと走って行った。

色々なことでちょっと疲れていたけれど、まあいっか、と思った。そして、次にここに来ることがあれば、またこの曲を聴こう、と思った。

それから随分月日が経った。今、ニューオリンズから遠く離れた西海岸の片隅で、まだまだ夏だぞという昼間の勢いとはかわり、乾いた涼しい夜風が流れて、秋が近づく。ふと、またあの曲が聴きたいな、と思った。