2008年8月3日日曜日

Shake it and break it

1940年の真夏、ニューヨークにてSidney Bechet and the chamber music society of lower Basin Streetなる楽団によりラジオ番組のために録音されたこの風変りな曲の、冒頭のお遊び部分はこう始まる・・・

「ソプラノサックスという楽器は、陽気なクラリネットと哀愁漂うオーボエのアイノコとして長年に渡り悲しい宿命を負わされ、誰一人この楽器を真面目に取り上げる者はいませんでした。しかし、きちんとした名手の手に渡れば、これ程素晴らしい楽器はないのです。ところで、お客さんの中で何方かドクターはおられますか?いらっしゃらない?そうでしょう、今日ソプラノサックスの名手と言えば、シドニーベシェ教授以外にはいらっしゃらないのです。さあ教授、ソプラノサックスの名曲、shake it and break itをお願いします!」

悪ふざけのイントロと得体の知れない楽団員による怪しい演奏。だが、ただの悪ふざけに留まると思うと大間違い。テンポ良いビートに乗って登場するベシェ教授の縦横無尽にソプラノサックスを操る演奏は、1940年という彼の技術が最もピークにあった時代において、全く他のレコーディングに劣らぬほど切れ味鋭く心地よい一級品だ。

僕がお金のない大学生の頃最初に手にしたソプラノサックスは台湾製の5万円の楽器で、音程は合わないし演奏中にキーは外れるしで、散々だった。薄っぺらい音がチャルメラみたいだったので、通称「ミンミン」と呼び周りにはかなり迷惑がられていた。当時お金に困って彼女に一旦売り渡したが、再度書籍代をケチってお金を払い買い戻した。その後彼女との縁を切らずに結婚したので、あの時お金を払わなくてもよかったかも、などと今でもちょっと思う事もあるけれど、まあそれはそれで良い。

そして僕が今やっている趣味のジャズバンドで初めてステージに立った時も、「ミンミン」を使った。その後、2代目の楽器を経て、現在は3代目の相棒と一緒にステージに上がっているが、「ミンミン」なくして今のバンドをやろうとは思わなかったし、音楽自体を続けようと思わなかったかもしれない。結局、僕が「ミンミン」を買い戻したことが、学生時代の悪友を集めて今のバンドを再び結成したいと思う原動力となった。人生において自分の趣味の扉を開く鍵は、そう幾つもない。「ミンミン」との出会いは、僕にとってのそのような貴重な鍵だったと思う。

「Shake it and break it」・・・この曲の冒頭の悪ふざけイントロを聴く度に、僕はいつも「ミンミン」の事を言われているようで、一人微笑んでしまう。